これまでにこの研究から以下のような副次的研究や成果発表を行いましたので概要をご紹介します。
COVID-19から回復後に当院の回復者血漿研究に参加した日本人を対象として、COVID-19のS蛋白に対するIgG抗体が高くなる要因を検討した。581名のデータを解析した結果、年齢が高いこと、発症からの経過日数が短いこと、COVID-19の症状として発熱があったこと、COVID-19の治療としてステロイド投与を受けたこと、そして血液型がAB型であること、が高い抗体価と関係していることがわかった。これらの条件を回復者血漿採取のスクリーニングに組み込むことで、抗体価の高い参加者を効率的にスクリーニングできる可能性があることがわかった。
本研究では43名の回復者の血漿中のIgGの感染阻害効果を詳細に解析した。ほぼ全例(42例)でSARS-CoV-2に対する結合抗体の存在が確認されたが、そのうちの27例 (63%) のIgG分画が有意な中和活性を示し、その活性の強さは患者の重症度に相関していた。一方で16例では有意な中和活性は認められなかった。さらに中和活性の上昇を認めた患者の約半数(~41%)でピークから約1か月以内に中和活性の減少が認められた。このような中和活性の推移の特徴は血漿療法に用いるドナー血漿の選択に有用であるだけでなく、回復患者血漿輸注による受動免疫の持続、さらには再感染の可能性などの検討にも有用と考えられる。
COVID-19の治療法として期待されている回復者血漿ではドナー血液の厳格な品質管理が必要だが、回復者血漿中にSARS-CoV-2 RNA(RNAemia)が存在するかの知見は乏しい。今回、軽症から重症のCOVID-19に罹患した回復期ドナー100人を対象にRNAemiaを調べた。軽症77人(77.0%),中等症19人(19.0%),重症4人(4.0%)のCOVID−19既感染者を検査した。発症から検査までの期間の中央値は68.5日(四分位範囲、21−167日)であり、いずれの血漿中からもRNAemiaは検出されなかった。また軽症者,中等症者,重症者において、発症から少なくとも21日後,27日後,57日後にはRNAemiaは検出されなかった。本研究は回復者血漿採取の適切な時期の決定や使用の安全性に関わる有用な知見になると思われる。
当院ではCOVID-19回復者血漿の確保・備蓄を2020年4月より行っており、実施体制や体制構築について概説する。国立感染症研究所(NIID)、日本赤十字社(JRC)との連携体制をとり、当院では患者リクルート・抗体測定・血漿採取、NIIDでは血液中のSARS-CoV-2 PCR検査、JRCでは感染症スクリーニングを行った。適格性は同意時と血漿採取時の2点で評価した。同意時にELISA法で抗体価を、中和活性をIC50として測定し、回復者の血漿提供適格性を確認し、適格者において血漿採取を行った。2020年9月17日時点で100人以上の患者の治療に使用できる量の血漿を採取した。